【WEB座談会】アナリストの仕事と役割 第5回 コロナ禍の開示に投資家・アナリストは何をみたか?

いちごアセットマネジメント株式会社 副社長/パートナー 吉田 憲一郎
アセットマネジメントOne株式会社 責任投資グループ兼株式運用グループアナリスト 大藤 修義
みずほ証券株式会社 商社セクター担当シニアアナリスト 楠木 秀憲
株式会社野村総合研究所 上級研究員 三井 千絵

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新型コロナウイルスの感染拡大により,決算説明会などもオンライン化を余儀なくされた。そのような中,投資家やアナリストは企業による自社の状況の説明や「会計上の見積りの仮定」の開示をどのように受け止めたのだろうか。早期適用が始まったKAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)やコロナ禍を通して見えてきた日本企業の今後の課題なども含め,幅広く議論していただいた(座談会はオンラインで9月8日に行った)。

三井 :この座談会ではこれまで,「有価証券報告書の利用」について座談会をしてきました。過去には財務諸表の金融商品や減損に関する開示,また非財務部分でも気候変動に関わる開示についても取り上げました。

今年は3月ぐらいから,私たちもアナリスト説明会や投資家ミーティングが次々にオンラインになるなど過去にない体験をしてきました。会社に対しては世界中のレギュレーターが,新型コロナウイルス感染症(コロナ)の影響の開示について,Q&Aやガイドラインを出してきました。

そうした中,日本でも4月以降,企業会計基準委員会(ASBJ)や金融庁が,コロナの影響における減損判断の根拠となる「経営者による会計上の見積り」の仮定の開示や,それと整合性のとれたリスクやMD&Aの開示を会社に求めてきました。また会社の多くが,特に金融庁が5月21日に行ったアナウンスメント に驚き,対応に乗り出したように聞くこともあります。本誌でも,見積りの仮定を開示する「追加情報」について,決算短信より株主総会招集通知に開示した会社がより多く見られた,としていました 。その他にも,決算作業や監査が予定通りできないことによる有価証券報告書の提出期限の延長や,KAMの早期適用など,実に話題豊富な数ヵ月間でした。

このような状況を投資家やアナリストがどのように見てきたか,議論したいと思います。それではお一人ずつ,まずは自己紹介をお願いします

大藤 :アセットマネジメントOneの大藤です。現在の所属は責任投資グループで,パッシブから見たエンゲージメントやESGに関する調査を主な職務としています。その前は,ファンドマネージャー,化学担当アナリストと主にアクティブのグループにおりました。ですから今日はパッシブ,アクティブと両方のバイサイド目線で発言させていただこうと思います。

楠木:みずほ証券で商社セクター担当アナリストをしている...