わたしの働き方Vol.11 ~独立公認会計士インタビュー~

 公認会計士 乾 隆一

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【編集部より】
監査法人以外で活躍している公認会計士の方々に,これまでのキャリアや働き方などについて聞く本コーナー。今回は管理会計を強みに企業の課題解決などに取り組み,現在はArithmerで組織内会計士として常務取締役兼CFO 経営管理本部長を務める乾隆一氏に話をきいた。

─公認会計士を目指したきっかけを教えてください。

 高校時代に将来を考えた時に一番なりたかったのは化学者で,会計士は二番目でした。親の知り合いに会計士の先生がいて,色んな人に頼られている姿を見て「人の役に立つ仕事っていいな」と昔からなんとなく思っていました。大学は理系を断念し商学部に通うことになり,当然,会計士を目指している人も周りにいました。私が育った東京の大田区は中小企業が多く,小学校の同級生も働いていましたし,会計をベースに彼らの相談に乗れたらいいなと思って,在学中に勉強を始めました。

─最初は監査法人に入られたのですか。

 そうですね。ちょうど会計士の就職氷河期が終わるくらいの時期でした。監査法人は氷河期の影響で上の世代が少なく,若いうちから様々な仕事ができる環境でした。今だと5年目くらいにやるような現場責任者(インチャージ)などを2年目の後半でやっていましたので,4年弱の監査法人勤務でしたが,濃密な経験ができたと思っています。

もっとも,監査法人に入ってすぐに思ったことは,「優秀な人が多すぎませんか」ということです(笑)。特に1年上にスーパーな人がいまして,自分が1年後そうなれるのかと思うと難しいなと。そこで自分のことを見つめ直し,もう一度自分が好きだった管理会計を勉強したいと思い,監査法人を辞めて大学院に行きました。大学院ではある程度時間がありましたし,監査の経験がある人間が欲しいとお声がけいただいたのでTACの公認会計士講座の講師をやり始めました。自分の事務所の仕事もしていて,バリエーション算定やIFRS導入,改善コンサルなどを行っていましたが,提案を喜んでいただけたと思っても,1年もすると会社の業務フローが元通りになっていたりするんです。それが悩みで,外から見ているだけでは会社の意思決定や考えを理解するのは難しいなと感じました。それならば「会社の中の論理」というものを理解するために,一回会社の中に入ってみようと,自分の事務所は一旦開店休業状態にし,最初はクロス・マーケティングというマザーズ上場(当時)の会社に入社しました。

─どのようなお仕事をされたのですか。

 最初は経理の月次ルーティンからです。監査法人側で資料の完成形は見ていたものの,月次の締め方や税金対応,開示資料や予算の作り方はそこで初めて学びました。その次に入社したブイキューブは,当時マザーズ上場の直前という段階で,最初は経理マネージャー的なポジションで入り,その後経営企画的な業務が増えていきました。具体的には,内部統制の実効性を高めたり,買収プロジェクトにメインメンバーとして関わったり,東証一部指定替えの準備をしたり,子会社の整理をしたり,スピンオフしたベンチャー子会社でCFO的な役割を担ったり,いろいろやりました。実際に会社で働いたことで,物事の順番や様々な部署の人の思いや,会社のステージで変わる意思決定ルールなどもわかるようになりました。

それから,会計士を目指した原点に立ち返り,経験を活かしつつさらに経験が積めるよう,シードラウンドくらいで急成長を遂げつつある会社を探し,今の会社に入りました。職域としては管理系,単に経理とか経営企画だけではなく,人事や労務,法務や総務なども連携しながら見ています。また,役員としても会社の将来を見据え日々課題と向き合っています。

─仕事上大切にしていることはなんですか。

 新しいことはやってみようと思うようにしています。楽しみと不安がない交ぜですが,そのドキドキするような感覚はすごく大事にしています。あとは,基本は楽しみながら,関わる人の笑顔を見られるようにしたいということです。あえて厳しいことを言わなければならなかったり,私自身がお叱りを受けることもありますが,その先の笑顔のために忠実にやりきることが大事だと思っています。

─コロナ禍の働き方についてどのようにお考えですか。

 個人的には,そもそも仕事というのは場所や時間に囚われず,成果を出す必要があると思っています。出社か在宅かに限らず,各自がパフォーマンスを発揮しやすい環境づくりを会社がしてあげる。それがコロナ禍に限らず,今の時代の働き方だと思っています。

─若手会計士の方々に一言お願いします。

 公認会計士という資格は,監査や会計の専門家だけにとどまらない魅力的な資格だと思います。会計や数字はあらゆるビジネスの入口であり出口ですから,それがわかることは色んな領域にスムーズに接することができるということでもあります。スペシャリストを目指すのも良いですし,ゼネラリストになるのも一つです。なんでもできる素養を身につけられるのが会計士試験の良さだと思うので,若手の皆さんも目の前のことが会計士人生の全てだと思い込まず,好奇心を強く,目線は高く持ってほしいですね。ぜひ物事を柔軟に受け止め,考え,発信してもらえたらと思います。

─ありがとうございました。

(インタビューは2021年2月にオンラインで実施した)

乾 隆一氏
(いぬい・りゅういち)
1998年 公認会計士第2次試験合格 中央監査法人入所
2002年 公認会計士登録。乾公認会計士事務所開設。
TAC公認会計士講座専任講師(~2012年)。
2009年 東京実務補習所副委員長(~2015年)
2012年 ㈱クロス・マーケティング入社
2013年 ㈱ブイキューブ入社
2016年 ㈱ブイキューブロボティクス・ジャパン(現㈱センシンロボティクス)取締役
2017年 ㈱ブイキューブ 執行役員 経営企画本部長
2019年 Arithmer㈱ 常務取締役兼CFO 経営管理本部長