【INTERVIEW】キリンホールディングス「ニューノーマル時代のコーポレート・ガバナンス」

─CSV経営を支えるもの─
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キリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部 IR室 室長 松尾英史
キリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部 IR室 主査 山崎大護
<編集部より>
コロナ禍においても,コーポレート・ガバナンス(CG)を経営に活かし,企業の「稼ぐ力」を向上させることは重要である。本誌は,ビール・飲料事業,医薬事業のほか,ヘルスサイエンス事業という新たな領域を開拓し,持続的な成長を実現するキリンホールディングスにインタビューを実施。同社が取り組む「社会的価値と経済的価値の両立」を目指す「CSV経営」を支えるCGのあり方をきいた(インタビューは2021年2月下旬にオンラインで行った。所属部署および役職は取材当時のもの)。

1.CSV経営

─本日はよろしくお願いします。日本取締役協会の主催する「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」の大賞(2020年度)に選定されるなど,コーポート・ガバナンス(CG)を経営に活かす取組みが高く評価されていますね。CGを経営に活かし,持続的な成長を実現する姿は,他社にとっても大変参考となるものと思います。CGを経営に活かすとはどういうことか,その基本的な考え方を,貴社のCGの特徴も含めてお聞かせください。

松尾英史氏(以下,「松尾」)  我々が特に強調しているのが,2013年から取り組んでいるCSV(Creating Shared Value)経営です。これは社会的価値と経済的価値の両立を目指すもので,社会課題を解決していくことがビジネスになるという前提のもと,この考えを経営に取り込んでいます。例えば中期経営計画でも非財務KPIの1つにCSVコミットメントというアクションプランを掲げ,その実行状況を取締役会でモニタリングしています。また,年度末には,役員報酬の業績評価指標の1つとしてCSVコミットメントの進捗・達成状況を評価して,社外取締役が過半数を占める指名・報酬諮問委員会で審議し,取締役会へ答申しています。これにより,グループ全体で社会的価値を創出するとともに,競争力強化と事業の成長という経済的価値につなげ,CSV経営を深化させるというサイクルを描いています。ある意味,今のようにESGという言葉が新聞等で毎日出てくるような状況になる前から,こうした観点の経営を行っていたと言えます。組織能力をビジネスにインプットして社会課題解決のためのアウトプットを生み出し,社会的価値,経済的価値というアウトカムを創出する,このCSV経営をしっかり支えるものがCGだと定義しています。

我々の言うCSVとは「インプットによってイノベーションを生み出し社会課題解決に取り組むこと」ですが,言葉で言うほど簡単ではありません。我々のポートフォリオは食領域から医領域まであり,そして新たなヘルスサイエンス領域があります。現在その立上げと育成に取り組んでいますが,既存領域の利益を上げながらさらに新しい領域にも重点を移していくということは非常に難しいのです。イノベーションを生み出す上で特に重要な基盤となるのが,我々が培ってきた発酵・バイオテクノロジーを中心とした技術力のほか,多様な人材,マーケティング力,ICTの4つです。ビジネスを回す過程で,これらの基盤をCGでしっかりとチェックしている点が我々の特徴だと思っています。

山崎大護氏(以下,山崎)  我々のCGを分解すると3つのファクターがあると思っています。

1つ目は体制です。事業をどのようなガバナンス体制でチェックしていくのか,どのようなマネジメント体制で経営を推進していくのか,ということです。

2つ目は...