書評 木ノ内 敏久著『日本企業のガバナンス改革』

(日経文庫/本体1,000円+税)

東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 遠藤 元一

( 34頁)

本書は,2015年に官邸主導でガバナンス改革が開始された時期から2020年秋頃までの間のガバナンス改革の潮流を素描する書である。

第1章「アベノミクスは何を変えたか」は,閣議決定された日本再興戦略(2014年)が,企業の経営を「攻め」の経営に変えて後押しする仕組みを強化するためのコーポレートガバナンス改革として,「日本版スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」とを導入した。受託者責任を負う機関投資家と,投資を受ける企業の双方に圧力をかける仕組みを導入したことで,株主資本利益率(ROE)の向上,株主還元,社外取締役の本格的な起用,指名・報酬委員会の設置等が進み,企業経営の透明度を高め,外部から見えやすくする効果がもたらされた。これらがガバナンスの進捗の端緒であり,一歩前進であるとの筆者の評価に異論はなかろう。

第2章「東芝不祥事の教訓―墜ちた『優等生』」では,ガバナンス改革が緒に就いた同じ2015年に露見した東芝の不正会計問題を取り上げている。その後,不正会計の要因でもあったウェスチングハウスの買収子会社ののれん減損による巨額損失の可能性開示,ウェスチングハウスの米国...