Q&Aコーナー 気になる論点(321) 株式需給緩衝信託に関する会計処理

‐何が懸念されているか‐

早稲田大学大学院 会計研究科教授 秋葉 賢一

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 2022年8月18日の日本経済新聞朝刊(以下「新聞報道」)では、信託銀行を使った持合株式の売却の新手法について、「会計処理に懸念も」「統一基準が急務に」という見出しがつけられていました。どのような会計処理が懸念されているのでしょうか。

新聞報道では、発行会社が信託を通じて自己株式を取得し処分する手法の会計処理に、あいまいな点があるとしています。しかし、明示されているスキームの会計処理は、明確であると考えられます。

〈解説〉

新聞報道の概要

新聞報道によれば、信託銀行を使った持合株式売却の新手法を導入する企業が相次いでいるとしています 。導入を想定しているのは、東京証券取引所の市場再編を受けて流通株式比率の引上げが必要な企業などであり、これまでは、大株主に保有株式を市場で売却してもらったり、企業が大株主から自己株式として取得したりするのが一般的であったものの、株式需給の悪化につながりやすいほか、企業が大株主と売却価格やタイミングを調整する必要があったとしています

これに対し、「株式需給緩衝信託③」(以下「本スキーム」)は、信託銀行が、企業の代わりに大株主から自己株式を一括取得し、予め決め...