資本コストや株価(PBR)を意識した経営(前編)

京都大学 経営管理大学院・経済学部 教授 砂川 伸幸
株式会社UACJ 取締役副社長 執行役員 川島 輝夫

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1.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について

東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を公表して1年数カ月が経過した。東証の要請は、2010年代以降の資本コスト経営や企業価値向上に向けた取組みに関する諸施策の総括という位置づけができる。

例えば、コーポレートガバナンス・コードの2018年の改訂では、原則5-2に「資本コストを的確に把握した上で、事業計画や資本政策の方針を示す」ことが追記された。また、2010年代に東証が設けた企業価値向上表彰制度では、大賞受賞企業の特徴として、資本コストを上回る資本利益率をあげることを経営目標とし、NPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)など資本コストを反映した投資評価指標や管理指標を用いていることが示されている。

このように、資本コストや企業価値を意識する経営が浸透しつつある中で、2023年に要請が行われ、それに応じて2024年7月末時点でプライム市場上場企業の86%、スタンダード市場上場企業の44%が、具体的な方針や取組み等を開示している(東京証券取引所(2024年))。この期間に日経...