2021/03/16 9:00
このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年3月号に掲載されました。

(写真:いわき市公認アイドルグループ「アイくるガールズ」)
2011年3月の東日本大震災では、地震や津波による被害だけではなく、大幅な人口流出といった困難に直面した福島県いわき市。2011年の市外への転出者数は一時的に1万2千人を超えました。
その後、記録的大雨をもたらした2019年10月の台風19号の際は、同市を流れる夏井川が決壊し、死者も出るなど、大きな災害が続きました。
禍去って禍また至るという状況にあっても、いわき市の魅力を全国に発信し、郷土の明るい未来を描き続けようと、ローカルアイドルグループ「アイくるガールズ」をプロデュースする関野豊さんに、お話をお聞きしました。
※シビックプライドとは19世紀にイギリスの都市で使われていた言葉で、「都市に対する市民の誇りや愛着」を表します。
――関野さんはプロデュース業を始める前からライブハウスを経営されているそうですが、ライブハウスを始めたきっかけは。
私はいわき市で生まれ育ちました。学生時代から音楽に傾倒し、バンド活動に没頭。都内の大学を卒業してUターンし、父が経営する葬儀社に就職しながらも、時間を見つけて地元のライブハウスに通うような日々でした。
あるとき、知り合いから「閉店するライブバーがある」と相談されたことをきっかけに、ライブバーを引き継ぐ決心をしました。葬儀社の実務から離れ音楽業の経営に専念するようになったのは、2002年にライブハウス「クラブソニックいわき」を新たにオープンしてからです。前年に「ソニック プロジェクト」を立ち上げ、おかげ様で創業20周年を迎えることができました。
今では、福島県いわき市と茨城県水戸市でライブハウスを経営し、20人ほどの正社員とともに音楽イベントの企画・制作をしています。数百万円規模の売り上げのある音楽イベントを動かす一方で、トップ画像に掲載していただいているいわき市を拠点に活動するローカルアイドルグループ「アイくるガールズ」のプロデューサーもしています。

(写真:元映画館を改装したclub SONIC iwaki)
──コロナ禍でのライブハウスの経営はご苦労があるのでは?
2019年は水害で一時閉館を余儀なくされ、ようやく立ち直ってきたところにコロナ禍が直撃し、2020年3月以降は音楽イベントの中止や延期が続き、当ライブハウスの経営も大きなダメージを受けました。しかし、クラウドファンディングを始めたり、全国のアーティストや地元の方々の熱い応援をいただいたりして存続できています。
ライブハウスというのは、単に歌を歌い音楽を奏でる場所ではありません。ミュージシャンにとっては表現の場。これまでも、RCサクセションでギタリストとして活躍してきた仲井戸麗市さんを始め、著名な方々にライブ会場として使ってもらってきましたが、そういったプロの方に選ばれ満足いただける高いクオリティを保ちながら、地元のバンドも気軽に演奏できて、音楽文化を醸成・発信できるような拠点を残したいという思いでいます。
「アイくるガールズ」も定期公演(2020年3月の第80回、同4月の第81回)を無観客でのライブ配信に変更したり、ライブ会場を野外音楽堂に変更して開催したりするなど、工夫を重ねながら活動を続けています。入場者には検温、マスクの着用、会場内では周りの人と十分な間隔を空けるなどのご協力をお願いしています。
新型コロナウイルスとの闘いという先が見えない不安の中にあるからこそ、音楽を絶やしてなるものかと思っています。東日本大震災のときも音楽の力を感じました。
──震災で感じた音楽の力とは?
いわき市は、地震と津波で460人以上の命を失いました(2020年12月現在、関連死含む)。福島第一原発の事故によって市外に緊急避難した人も多く、いわき駅前から人影が消えたのをよく覚えています。3月の下旬、次第に生活が落ち着いてくると、「多くの人が亡くなったのに、自分が生き残ってよかったのか」というもやもやした感情が生まれてきて、「ハコ(編注:ライブハウスのことをそう呼ぶ)やめっか...」、という思いが何度も頭をよぎっていました。
そのとき、被災地を応援するミュージシャンの演奏を聴いたスタッフたちの口から、「今だからこそできるライブを開催してみたらどうか」というアイデアが出てきました。条件は、お客さんからチケット代はいただかない、ハコ代も取らない、ミュージシャンのギャラもなし、というもの。企画をHPやTwitterで告知するとSNSでどんどん拡散され、「何かできることをしたい」というそれぞれの想いを持って、全国からたくさんのミュージシャンが駆けつけてくれました。「ORANGE RANGE」、「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の後藤正文さん、細美武士さん、「MONGOL800」のキヨサクさんなどの著名人も多数来てくれました。
ライブ当日はたくさんの人たちが詰めかけ、特に、目に涙を浮かべながら演奏を聴いている中学生・高校生たちの表情が印象的でした。綺麗事ではなく「音楽の力」を改めて感じました。ふと、聴きに来てくれた学生たちをステージに立たせられないかと思い立ちました。当時から男子のバンドマンは多くいたので、女子が活躍できる場を作りたいと頭に浮かんだのが「ご当地アイドル」でした。

(写真:ご自身もミュージシャンとして活動をしている関野さん)
──当時はご当地アイドルというものが流行になる前で、アイドルといえば大手プロダクションに所属するというのが一般的なイメージでしたね。
そうですね。地元発アイドルを地元の手でということで、いわき市の地域情報誌「タウンマガジンいわき」と共同プロデュースの形で、いわき市商工業活性化事業の一環として「いわきロコドルユニットプロジェクト」を発足、実行委員会を結成しました。
実行委員会は私を含めて7人で、音楽家、ダンス講師、広告代理店職員などで構成されています。結成当時から今までずっとボランティアで、それぞれの職能を生かして活動を支えてくれています。例えば、いわき市の競輪場で映像関係の業務をしている企業のメンバーが、プロの腕でライブの模様を撮影し、全国のファンに向けて映像配信をしてくれています。また、フラダンスで有名な町なのでフラダンスを振り付けに取り入れたり、私は作詞や作曲などもして、「いわき市民によるプロデュース」になるよう心がけました。
第1回オーディションの開催は2013年3月、条件は、いわき市在住の中学生~20歳までの女性、週2回のレッスンに参加できる方。ふたを開けると10人程度の募集枠に120人もの応募がありました。
面接では、「東日本大震災で全国の人たちがボランティアでいわき市に来てくれたり、寄付していただいたりとお世話になったので、アイドル活動を通して恩返しをしたい」と語る子たちが多く、とても驚かされました。震災で人生観が変わったのは大人だけでなく、その姿を側で見ていた子どもたちも同様だったようです。そして、今度は誰かを助ける側になりたいというプラスの気持ちになっているのだと実感しました。
同月、「アイくるガールズ」を結成しました。翌月から「あまちゃん」のTV放送がスタートし、ご当地アイドルの存在が知られるようになったのは幸運でした。地元の企業から活動への賛同を集めるときも「(主人公の)アキちゃんを応援するようなことかね」と応援してくれ、2014年にはいわき市公認のご当地アイドルになりました。
2016年にご当地アイドル日本一を決める「U.M.Uアワード2016」でグランプリを受賞し、ご当地アイドルコンテスト4冠(※)達成を果たしています。
(※「U.M.Uアワード2016」、「NHKオンデマンドWONDERアイドルステージ(2014)、「スカパーご当地アイドルお取り寄せ図鑑」(2014)、「日テレ汐留ロコドル甲子園2015」の4冠)。
また、2020年1月には、映画『さくらコンチェルト』に出演しました。この映画は、「映像文化の地産地消」を掲げる「いわきローカル映画プロジェクト〈Totte Mippe〉」がクラウドファンディングで製作したもので、「いわきの、いわきによる、いわきのための映画」と題し、撮影場所はすべて市内、製作・出演スタッフもみないわき市民です。お金を集めて市外に発注するような仕事を、地元の人たちのボランティアや協力で生み出し、市外からもお客さんが見に来てくれました。
そして今年、2021年は映画第2作目、いわき湯本温泉を舞台にした『湯けむりノクターン』が4月に公開予定です。(映画の情報はこちら→https://www.facebook.com/TotteMippe/)


(アイくるガールズが主演する湯本温泉を舞台としたサスペンスコメディ『湯けむりノクターン』公開間近!)
──「アイくるガールズ」の活動によって関野さん自身が得られたものとは?
彼女たちの活動目的は、いわき市の魅力を全国へ発信し、町・経済の活性化を図ることです。そのプロデュースをしていく中で、私自身もいわき市の魅力を発見することができました。
実は、大学卒業後にいわき市にUターンしてから震災が起こる前まで、「この町には何もない」と思っていました。映画館も次々に潰れ、文化や芸術が根付かない町だとどこかで蔑んでいました。その想いが自分を音楽活動に向かわせていたのかもしれません。しかし、「アイくるガールズ」の活動を通して、魅力的な人たちがたくさんいたのだという、いわき市の新たな「発見」がありました。東京に憧れて出ていく人も多い地域ですが、音楽や文化の力で、この地に住んでいる人たちがプライドを持ち、愛せるような地元を作っていきたい。そしてこの動きを、次世代に引き継いでいくことができたらいいなと思っています。
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関野 豊 せきの ゆたか
ソニック プロジェクト アイくるガールズ オフィシャルウエブサイト |
(文:平井明日菜、写真:アイくるガールズ/本人提供/Totte Mippe)
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