社会保険ワンポイント

社会保険に関する旬のトピックスや、注意すべき項目などについて、わかりやすく解説するワンポイントコラムです。(毎月更新)

最低賃金引上と労災保険特別加入の拡大

 新型コロナウイルスは依然として猛威を振るっています。コロナに感染してもなかなか入院できない事態が発生しています。会社担当者の方は従業員に対し、従業員本人や家族が罹患または濃厚接触者となった場合には速やかに会社に報告を入れてもらうのと共に、ワクチン接種時の勤務時間の配慮、職場の日々のウイルス対策等を引き続き継続いただきたいと思います。

 さて、今月は、毎年恒例の最低賃金改定と、フリーランスの方の労災保険について取り上げます。

特定最低賃金
1.最低賃金改定の流れ
 最低賃金は年に1度、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会が都道府県の経済実態、労働者の生計費等に応じ、全都道府県をABCDの4ランクに分けて改定額の目安について答申がなされます。この結果を受けて地方最低賃金審議会が地域における状況等を調査審議の上、都道府県労働局長に答申。最終的に都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。

2.最低賃金額が大きく変わる
 昨年はコロナ禍という未曽有の事態により、北海道、東京、静岡、京都、大阪、広島、山口、の各都道府県が据え置きとなりましたが、今年はそうはなりませんでした。Aランクの都道府県については以下となっています(その他の道県については表下のリンクご参照)

都道府県名 新最低賃金(参考:改定前の額) 発効日
埼玉県 956円(928円) 10月1日
千葉県 953円(925円) 10月1日
東京都 1,041円(1,013円) 10月1日
神奈川県 1,040円(1,012円) 10月1日
愛知県 955円(927円) 10月1日
大阪府 992円(964円) 10月1日

全国の地域別最低賃金額(厚生労働省HP)

地域別最低賃金の額が改定後の金額に適用となる日(発効日)は10月1日が主流ですが、それ以外の発効日もありますので、自社の属する都道府県の発効日がいつなのかも確認しておく必要があります。ちなみに地域別最低賃金法違反は50万円以下の罰金ですので甘くみてはいけません。
 また、最低賃金額には上記の「地域別最低賃金」の他に、特定の産業で労働する方を対象とした「特定最低賃金」があり、後者に該当する労働者の場合、地域別か特定かいずれか高い方の最低賃金額が適用されます。

労災保険の特別加入
1.フリーランス等は労災保険の対象外
 コロナ禍による巣ごもりや副業・兼業の拡大に伴い、個人の方がいわゆる「フリーランス」として働く機会が多くなってきました。このフリーランスで怖いのが仕事中のケガなどです。一般の労働者であれば、短期や短時間のアルバイトでも仕事中にケガや病気になったときに「労働者災害補償保険(以下、労災保険)」でカバーされますが、フリーランスの方は個人事業主と同じ位置づけとなり労災保険の対象にはなりません。副業・兼業は収入を増やす手段として注目を浴びていますが、この点は大きな弱点でした。

2.特別加入(労災保険)の対象者拡大
 上記のように労災保険の対象外だったフリーランスの方ですが、令和3年9月1日から対象となった業種で条件を満たした場合は、労災保険に特別加入できるようになりました。

<労災保険の特別加入制度とは>
 労災保険は、(雇用される)労働者が仕事または通勤によって被った災害に対して補償が受けられる制度です。言い換えれば単独で仕事をしている人は(労働者ではないので)労災保険の対象にはなりません。しかし労働者以外の方でも、一定の要件を満たす場合に労災保険に任意で加入することができ、補償を受けることができます。これを「特別加入制度」といいます。

3.特別加入の対象になった業種とは
 令和3年9月1日から、「自転車を使用して貨物運送事業を行う方」と「ITフリーランスの方(注1)」が労災保険の特別加入の対象になりました。特別加入のメリットは、仕事中や通勤中のケガ(注2)病気、障害、または死亡等となった場合、労災保険の補償を受けられます。
(注1)「ITフリーランス」の対象となる業務範囲は、情報処理システム関連、ソフトウェアやウェブページ関連、とされています。
(注2)自転車使用の貨物運送業務の場合、通勤災害の対象にはなりませんが、事業の範囲内で自転車を運転する作業、貨物の積み下ろし作業と直接付随する行為での被災は、業務災害の対象になるとされています。

特別加入の拡大HP(厚生労働省)

特別加入の方法
 すでに貨物運送業務及びITフリーランスの特別加入団体として承認された団体を通じて、または、新規に特別加入の団体を設立し、所轄の労働基準監督署経由都道府県労働局長に「特別加入申請書」等を提出することになります。

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 加入が認められれば必要な保険料を納め、業務等で被災した場合は、必要な治療費や休業した場合の休業給付、障害が残った際の障害給付、万が一の死亡時の遺族給付、等を受けることができます。

まとめ
 新型コロナによる悪影響には本当に参りましたが、嘆いていても事態が好転するわけではありません。会社担当者の方は今回の情報を自社運営に活用したり、従業員に対して周知を行い、リスク軽減に努めるなどを行っていただきたいと思います。

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特定社会保険労務士
小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。当コラムは2015年1月より担当。
ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション http://www.solution.or.jp/

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