今月の実務の動き(人事労務)

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パワハラ防止指針の策定 ~指針で事業主が講ずべき具体的な内容が明らかに~

img_jitsumu_0097.jpg 改正労働施策総合推進法30条の2第3項に基づき、いわゆるパワハラ防止指針が策定されました。
 まず、改正労働施策総合推進法30条の2第1項は事業主に対して、次のとおりパワーハラスメントの防止措置義務を課しています。

 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
 これによれば、パワーハラスメントとは次の①~③の要件を全て満たすものと定義されることになります。
①優越的な関係を背景とした言動であること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されるものであること

 そして、指針は、事業主が講ずべき上記パワハラ防止措置について、具体的な内容・解釈を明らかにしています。

指針の示す解釈

 以下に、パワハラの各要件について、指針の示す解釈を紹介します。

①「優越的な関係を背景とした言動であること」
 指針によれば、職務上の地位が上位の者は常にこの要件を満たすものとされています。
 一方で、同僚または部下による言動については、集団による行為や、当該同僚や部下が専門的な知識・経験を有しており、その協力を得ないと業務の円滑な遂行に支障が生じる場合など限定的に解釈されています。

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること」
 指針によれば、同要件とは、「当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、例えば、以下のもの等が含まれること」とされています。
 ここでは、業務上の必要性と相当性という2つの要件が問題とされていますが、このうち業務上の必要性については、「明らかに(必要性がないこと)」という点が強調されており、列挙されている具体例においても、「明らかに必要性のない」や「目的を大きく逸脱」などとされています。したがって、業務上の必要性という要件は比較的広く認められるものと考えられます。一方で、手段としての相当性の要件についてはそのような限定はありません。

 また、指針では、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」という当該要件の該当性を判断するにあたって考慮すべき様々な要素が以下のとおり列挙されています。
 ・言動の目的
 ・言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
 ・業種・業態
 ・業務の内容・性質
 ・言動の態様・頻度・継続性
 ・労働者の属性や心身の状況
 ・行為者との関係性等

 これらは、これまでの裁判例を分析した結果導かれた要素と思われ、実務上もパワハラ案件に対応する上では重要な考慮要素になるものと考えられます。

③「労働者の就業環境が害されるものであること」
 指針では、「当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すこと」とされています。

 ここでは、「重大な悪影響」や「看過できない程度の支障」など、軽微な影響・支障は除外されていることがポイントになります。
 また、同要件該当性の判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準にすべきものとされている点も重要です。

 労働者の中には、一種クレーマー的に被害を訴える人がいることも否定できませんが、そのようなケースであっても、企業としては本指針に基づき、あくまで平均的な労働者の感じ方を基準にして毅然とした対応を取ることが求められます。

派遣労働者について

 指針では、「派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第四十七条の四の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ」、派遣先は派遣労働者に対してもパワハラ防止措置義務を講じることが必要になるとされています。

指針が挙げる具体例

 指針が挙げている例はいずれも当然のものが多いですが、パワハラに該当しないと考えられるとされている例のうちいくつか挙げると以下のとおりです。
・「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。」
・「労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。」
・「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。」

 優越的な関係が背景にあることを前提にすれば、「労働者の了解を得て」という部分の解釈は注意を要するでしょう。

施行日

 施行日は2020年6月1日です。
 ただし、中小企業に関しては2022年3月末まで雇用管理上の措置義務が努力義務にとどまることとされています。